『上を向いて歩こう』
 ペットのムササビが逃げ出した。善之と真由実は町中のムササビがいそうなところを探してまわる。ムササビは飛び方を教えてやらなければ、飛ぶことができない。子供のムササビに飛べない二人は必死になって飛び方を教えた。だが、それによってムササビは逃げてしまったのだ。でも、飛び方を教えたことは良かったんだよね。

 この善之君をやっている役者の保倉君が普段は植木屋さんをやっているんです。植木屋さんと聞くと、垣根を刈ったりという庭木を刈ったりというイメージですが、10メートルくらいの木なら、よじ登って枝を落としていくらしいんです。そこでよくカラスの巣を見つけるらしいんです。洋服をかけるあのハンガーを組み合わせて作ってある。無数のハンガーによって形作られたカラスの巣だそうです。確かに、カラスが街中で巣を作ろうにも適当な枝が巣作りに充分なだけ見つかるものでもないのでしょう。ベランダからせっせと集めたハンガーで織りなされたカラスの巣。私がこの『メトロ』でやりたいイメージはまさに、このハンガーの巣です。様々な問題に対して、その場、その場に応じた一番ベストの方法で対処する。代用品なんていくらでもあり、やりたいことの実現のためにはやってはいけないことなどなにもない。そんなハンガーの巣であったとしても、その中で立派にカラスの雛は育っていく。それでいいんです。大朔から聞いたこの話はとても元気が出る話でした。でも、だからといってそれをまんま使うわけにはいきません。作品を作るためのきっかけが、芯になると作り手の思いこみだけが目につく物になりがちです。というわけで、ムササビのどんぐり君の登場となりました。